飛行機が苦手という方から、苦手意識を克服する方法について相談を受けました。
調べてみると、飛行機が苦手な方は意外と多いようです。
そこで、少しでもお役に立つようにパイロットの視点で克服のヒントをお伝えしようと思います。
飛行機の苦手意識克服法を検索すると「音楽を聴く」「お酒を飲む」といったアドバイスが多く見受けられます。
しかし、怖いと感じている人にとって、それだけで恐怖心が解消されるわけではありません。
そこで、飛行機への理解を深めることで恐怖心を和らげることができるのではないかと考え、いくつかのポイントを紹介します。
飛行機の安全性についての真実
飛行機は、すべての乗り物の中で最も安全と言われています。
しかし、事故が報道されるたびに、その衝撃さゆえに不安を感じる方も多いのではないでしょうか。
このセクションでは、飛行機の安全性について具体的なデータをもとに解説します。
事故の確率とその影響
実際に飛行機の事故率を比較すると、他の交通手段と比べて非常に低い値となっています。
米国の国家運輸安全委員会(NTSB)によると、飛行機に乗って墜落する確率は0.0009%です。
また、国際航空運送協会(IATA)が発表した2013年のデータによると、ジェット旅客機が事故を起こす確率は100万便につき0.41回。
仮に週1回往復(2回搭乗)し、年間104回飛行機に乗ったとしても、事故に遭う確率は3900年に1回という極めて低い確率です。
それでも、一度事故が起きるとその衝撃的な映像や高い死亡率が注目され、飛行機恐怖症の方にとってはトラウマになることもあります。
飛行機の安全対策と技術の進歩
飛行機の安全性を確保するために、さまざまな技術的進歩が積み重ねられてきました。
最新の航空機は、徹底した安全対策が施されており、過去と比べてはるかに信頼性の高いものとなっています。
航空技術の進化と安全性の向上、フェイルセーフ構造とは
現在の飛行機は、過去と比較してはるかに安全になっています。
飛行機のシステムは、万が一の故障にも対応できるように、二重・三重のフェイルセーフ構造が採用されています。
そのため、飛行機が原因で墜落する重大な事故は大幅に減少しました。
戦後の航空事故の統計を見ても、技術の進歩により事故の件数は減少し続けています。
しかし、1970年代後半になると事故件数が横ばいになりました。
ヒューマンエラーとCRMの導入
事故件数の横ばいの原因として注目されたのが、ヒューマンエラー(人間のミス)です。
航空機の技術が進歩し、システムの信頼性が向上したことで、機械的な故障による事故は減少しました。
しかし、それでも事故が完全になくならないのは、人間の判断ミスやコミュニケーション不足が関与しているからという事がわかってきました。
これを防ぐために、航空業界ではパイロットや乗務員のトレーニングが進化し、CRM(Cockpit Resource Management)と言うトレーニングプログラムが導入され、より安全な運航が実現するようになりました。
CRMによる事故防止の取り組み
「CRM(Cockpit Resource Management)」は1980年代初頭にユナイテッド航空が開発したがトレーニングプログラムです。
CRMは、機長が絶対的な権限を持つ縦社会の操縦室環境を改善し、乗員間のコミュニケーションを円滑にすることで、最善の判断を導き出す仕組みです。
CRMの導入以前、機長の指示は絶対であり、副操縦士や他の乗務員が違和感を抱いても意見を言えないケースが多々ありました。
その結果、些細なミスが大事故につながることもありました。
しかし、CRMが導入されたことで、機長と副操縦士、さらには客室乗務員との意見交換がスムーズに行われるようになり、誤った判断がなされる可能性が減少しました。
現在では、ほとんどの航空会社でこの訓練が行われ、航空機の安全性向上に大きく貢献しています。
さらに、CRMの概念は操縦室内にとどまらず、航空会社全体の運航管理や地上支援チームの連携にも活用されるようになりました。
これにより、運航の一貫性が高まり、より安全な飛行が可能になっています。
エアライン選択の重要性
飛行機の安全性を考える際、どの航空会社を利用するかも重要な要素です。
各航空会社の安全管理のレベルは最低限の安全性の確保はもちろんですが、大なり小なり差があるものです。
ですのでより信頼性の高いエアラインを選ぶことで、事故のリスクを最小限に抑えることができます。
信頼できるエアラインを選ぶ
現在の航空事故の多くはヒューマンエラーによるものです。
そのため、搭乗する航空会社を選ぶことは、安全性を高めるための重要なポイントとなります。
航空会社ごとに異なる運航方針や安全対策が存在し、それが運航の信頼性に大きく関わってきます。
世界の航空会社の安全対策は一定の水準が保たれていますが、国によって安全対策や操縦士の訓練の質には違いがあるのも事実です。
たとえば、一部の国ではパイロットの資格取得基準が厳格であり、定期的な技術試験やシミュレーショントレーニングを受けることが義務付けられています。
一方で、安全管理が十分でない航空会社も存在し、機材のメンテナンスや乗務員の労働環境が整っていないケースもあります。
我々パイロットは、各航空会社の内情を知る機会が多いため、「絶対に乗らない」と決めている航空会社もあります。
過去の事故歴、操縦士の訓練環境、会社の安全管理体制などを考慮し、特定の航空会社を避けることも少なくありません。
特に国際線を利用する際は、その国の航空当局の規制や監査状況を確認することも有益です。
日本の航空会社は安全か?
日本の航空会社は世界的に見ても安全性が高く、厳格な管理体制のもとで運航されています。
日本の航空業界では、国土交通省が定める厳しい安全基準を遵守しており、機体の整備や乗務員のトレーニングが徹底されています。
そのため、私自身、国内線であれば特にエアラインを選ばずに安心して利用しています。
また、日本の航空会社は顧客対応の質も高く、トラブル時の対応能力も非常に優れています。
パイロットの訓練とシミュレーター
パイロットは厳しい訓練を受け、不測の事態にも対応できるよう準備されています。
特に、シミュレーターを活用したトレーニングは、実際の飛行と同じ感覚で多様なシナリオを体験できるため、安全性向上に大きく貢献しています。
高度なシミュレーション訓練
パイロットの訓練は非常に厳格で、不測の事態に備えて定期的に行われています。
飛行機の運航は、わずかな判断ミスが大きな事故につながる可能性があるため、訓練の徹底が求められます。
現在は高性能なシミュレーター「FFS(Full Flight Simulator)」が導入され、実機とほぼ同じ感覚で訓練を行うことが可能です。
このシミュレーターでは、ほぼすべての想定可能な故障を再現でき、パイロットは実際の飛行と同様の状況で訓練を受けます。
例えば、エンジンの故障、油圧系統のトラブル、急減圧といった緊急事態をリアルにシミュレーションし、対応手順を徹底的に身に付けます。
また、離陸や着陸時の悪天候を想定した訓練も行われます。
例えば、強風や豪雨、低視程の中での着陸技術を磨くため、様々な気象条件をシミュレーションします。
近年では、実際の飛行データをもとにしたリアルなトラブルシューティング訓練も行われています。
さらに、CRM(Cockpit Resource Management)トレーニングも組み込まれ、操縦士同士の連携や適切な意思決定の強化が図られます。
パイロットは、冷静に状況を分析し、迅速かつ正確に対応できるよう繰り返し訓練を受けることで、安全運航の確保に努めています。
こうした設備の進化や継続的な訓練の徹底が、航空業界の安全性向上に大きく寄与しているのです。
パイロットとしての個人的経験
私自身、幼少期から飛行機に憧れ、実際にパイロットとして多くの経験を積んできました。
その中で感じたことや、飛行機の魅力についてお話ししたいと思います。
幼少期からの飛行機への憧れ
私自身の経験が、飛行機に対する恐怖心を和らげる一助になればと思い、お話しします。
私は、飛行機だけでなく、陸・海・空すべての乗り物が大好きで、それぞれのライセンスを取得しています。
特に飛行機は幼少期から憧れており、空港に行って飛行機を眺めるのが趣味でした。
そのため、飛行機に乗るときもワクワク感が勝り、怖いと思ったことは一度もありません。
乗客として搭乗するときも楽しみであり、操縦するときはまさに至福の時間です。
また、空からの景色は格別で、窓側の席に座るとずっと外を眺めています。
現在はエアラインを退職し、セスナ機を操縦しながら次世代のパイロットを育成しています。
セスナ機は単発機であり、そのエンジンは基本的に自動車のエンジンと大差ありません。
もちろん故障することはありますが、小型機であり速度も遅いため、不時着の成功率は高いです。
私自身、飛行機に乗ることが何よりの喜びであり、恐怖を感じたことはありません。
まとめ
飛行機の安全性について理解を深めることで、恐怖心を和らげることができます。
飛行機の事故が絶対に起こらないとは言えませんが、その確率は極めて低く、日常的に遭遇する自動車事故よりもはるかに少ないものです。
私は運命論者でも宗教を信仰しているわけでもありませんが、仮に飛行機事故(0.0009%の確率)に遭遇した場合、それは運命であり、定められた命だったのだと考えるようにしています。
それよりも、日常的に起こりうる自動車事故の方がよほどリスクが高いと言えるでしょう。
以上、パイロットの視点から飛行機への恐怖を和らげるためのヒントをお伝えしました。
少しでもお役に立てれば幸いです。